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「小林、これ頼んでいいか」
「はい!大丈夫ですよ」
担任の先生が手を乗せているのは恐らく学年全体に配る修学旅行のしおり。提出物を持ってきた職員室で担任につかまってしまったので、観念して頼まれることにした。
軽く持ち上げただけでもそこそこ重い。これを職員室から階段を1階上がらなくてはならない教室までと思うと既に辛い。
職員室を出ると、昼休みなためか廊下は生徒で賑わっていて、誰かとぶつかって落としてしまうというリスクにも備えて、より一層慎重に運ばなければいけなかった。
昼休みが終わった後のLHRで使うしおりなのだろうが、せめてクラスごとに分けて持って行かせることはできなかったのかとも疑問に思う。担任が修学旅行の何を担当しているのかはわからないけれど、他の先生と協力しては如何か、とも提案したくなる。
どんなに気を遣っていても起きてしまうのが自己なわけで。角から勢いよく飛び出してきた生徒とぶつかり上の方に積まれていた分が落ちてしまった。
ぶつかってきた相手はぶつかったことに気付かなかったのか、あえて無視しているのか、そのまま走り去って行った。
溜め息を吐いてゆっくり座り込む。無事な分まで落としてしまいたくはない。
「何してんだ」
落ちないように気をつけていると何故か全ての動作が遅くなってしまい、ゆっくり顔を上げると同じクラスの男子生徒が落ちたしおりを怪訝そうに見ていた。
そんな顔をされましても、私が悪いわけではないのに。
「拾ってます」
見てわかる情報だけを簡潔に伝えると、相手も拾うのを手伝ってくれるようでしゃがみ込んだ。
「ぶつかった奴に拾わせなかったのか」
視線をあげてしゃがみ込む相手のつむじを押してやりたい衝動に駆られた。見ていたのならあなたがそう言ってくれればよかったのに、なんて欲張りすぎるだろうか。
クラスで目立たない端っこにいる私と、クラスの中心にいるような彼だ。どちらを言うことを聞くかなんて明らかだ。
拾い終わり立ち上がると、彼は自分が拾ったものの他に私が持っていた無事な分から半分以上を取った。そのまま歩き出す彼の後を追いかける。
「あの、これくらい持てます」
「持てても身動きが取れないだろ」
落としてしまった手前「大丈夫」とも言えず、黙って後に続く。黙った私を見てふっと鼻で笑った彼に、ありがたみを感じる隙もなかった。
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