10.痛いの、痛いの、とんでいけ

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 眼鏡の顔できょとんと返すうぶそうなスミレを見て、花梨がちょっとからかい加減に笑っている。 「アレのハジメテの時って、痛いよねーって話」 「え、アレのハジメテって、アレのことですか?」  まだ男慣れしていないだろうスミレが、頬を染めた。花梨はこうしてからかって楽しむことがたまにある。花梨の悪いいたずらに、小鳥は密かに苦笑いを浮かべてしまう。 「でも。ほんとそのときだけですよね。それに、本当に好きだから痛いことも忘れちゃうと思いませんか」  え!? なに、その……いかにも経験済みのような落ち着いた返答!? まさか!!?  小鳥と花梨は思わず顔を見合わせてしまう。  そして、きっと『なににびっくりしたか』その驚きも同じことを思っている!?  驚愕で硬直したきりの先輩二人を見て、スミレがちょっと申し訳なさそうにつぶやいた。 「えっと。やっぱり『彼のお姉さん』を目の前にして、いつ報告すればいいか、ずっとずっと悩んでいたんです。次にそういう話題がでたら、思い切ってと決めていて」  花梨がテーブルに手を突いて立ち上がる、そして叫んだ。 「よくやった! 聖児!」  もう小鳥は顔を覆って項垂れる。  嘘、嘘だ~! 初体験、弟と奥手そうな後輩に先を越されていた!?  呆然としている姉の小鳥に代わるように、花梨がスミレに詰め寄る。 「なによ、すぐに報告してくれたって良かったのに! いつなのよ、いつそうなったのよ!?」 「えっと。その、クリスマスに……。聖児君、春になったら大阪の自動車大学校にいっちゃうから……」 「えー! やっぱ聖児はやるときやるね!」  盛り上がる二人が、ふと小鳥を見た。 「痛いんだって。翔兄のが」
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