11.小鳥の夢とアルバイト

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 スタッフ専用の駐車場に銀色のフェアレディZを駐車させ、スタッフルームで小鳥は制服に着替える。  肩先まである黒髪をぎゅっと一つに束ねる。制服は白いシャツに黒い蝶ネクタイ、黒いベストにタイトスカート。そして黒いローファー。鏡で身だしなみをチェックし、小鳥は『スタッフ専用出入り口』のドアを開ける。 「おはようございます」  扉を開けると香しい珈琲の匂い。目の前のカウンターで凛とした佇まいで珈琲を淹れるスタッフ達。 「滝田さん、これを10番テーブルまでお願いします」 「はい。了解です」  厨房から出てきたものを銀色のトレイに乗せる。オーダー票をチェックして、厨房からできてたドルチェの注文のほか、アイリッシュコーヒーとロイヤルミルクティーが注文されていることを確認。『ドリンクもあがったよ』という声を聞き、注文の品だと確認して、すべてを乗せて小鳥はカウンターを出る。 「お待たせいたしました」  10番テーブルのお客様は、買い物帰りのマダムお二人だった。 「滝田、カウンターに入ってくれ」 「はい。店長」  店長に言われ、小鳥はカウンターに入る。  小鳥はまだ客にドリンクを出すことは許されていない。ベテランがドリンクを作るアシスタントのみ。ただし、店長の監督付きで淹れることもある。  老舗喫茶、真田珈琲、本店。  そこが小鳥が二年間お世話になっているアルバイト先。    一番の理由は『この城下町で一番のカフェだから』。それに尽きる。  だけれど、できればこのカフェは避けたかった。何故なら、子供の時から知っている大人がこの会社にいるから……。  スタッフルーム専用のドアが開く。 「滝田は来ているか」
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