11.小鳥の夢とアルバイト

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 水色ストライプのぱりっとしたワイシャツに、紺色のスタイリッシュなネクタイをしている眼鏡の男性が現れる。 「はい。先ほど入ったところです。真鍋専務」 「事務所に珈琲二杯、持ってきてくれ。社長と会長からのオーダー。滝田をご指名だ」  眼鏡の奥の険しい眼差し、にこりとも微笑まず、専務の頬はいつも硬い。 「頼んだぞ」 「かしこまりました」  真田珈琲を支える営業マン、そして社長秘書も兼ねている『真鍋専務』は、先代の真田社長が大手珈琲メーカーから引き抜いてきたやり手ビジネスマン――と、その経歴を聞かされていた。  この真鍋専務が子供の頃からの知り合い。  こちらの奥様、真鍋夫人が両親の結婚式を手伝ったという縁もある。そのご縁で繋がったのも、漁村喫茶の伊賀上マスター繋がり。両親が結婚以降、特に琴子母と真鍋夫人の交流があって、小鳥はこちらの真鍋一家のことは子供の頃からよく知っていたりする。  奥様は再婚。前の嫁ぎ先は島の果樹園。そこのご主人が若くして亡くなったため、彼女も若くして未亡人。でもその後もご主人が遺した果樹園を守ってきた。それは真鍋専務と再婚後も。伊賀上マスターがこの果樹園の柑橘を贔屓にしてるので、そこから琴子母と真鍋夫人のおつきあいが始まった。  そんな子供の頃から小鳥を知っていて、よくしてくれたおじさんが、この街一番のカフェにいる。この『真鍋のおじさん』がいるので、本当はこのカフェでのバイトは避けたかった。ここが街一番の喫茶でなければ、ほかの店へアルバイトの面接に行っていた。
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