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縁故とか思われたくないし、おじさんと知っている子供という関係で遠慮されてもイヤだし、遠慮されなくても真鍋のおじさんには迷惑かもしれないと悩んだ。
『おじいちゃんは、この城下町で一番だと思っているお店はどこ』
漁村のおじいちゃんに聞いたとき。
『真田珈琲だね』
伊賀上のおじいちゃんがそう答えたときから、小鳥はそこで働くことを決意していた。もう、子供の時からずっと。
そこは譲りたくなかった。子供の頃からの知り合いがいても、ここだと決めていたところに行きたかった。
だけれどその心配は要らなかったよう。真鍋のおじさんは、小鳥だからこそ遠慮なく厳しくしてくれる。伊賀上のおじいちゃんにもよく言われる。『真鍋君の教えは間違いない。小鳥のためになるよ』――と。
「また試されて小言を言われるみたいだな」
小鳥がドリップを始めた横で、常に監督してくれる店長がため息をついた。
「いいんです。一年、二年そこらでは、淹れ方を覚えても、腕前はないんですから」
「そりゃ。そうだけれどなあ」
四十代の宇佐美店長も浮かない顔。
「滝田の腕が上がらないと、俺もなあ……」
指導係に任命されているから、小鳥の成長が認められないと、彼の責任も問われる。なので、二階の事務所に三代目の真田美々社長と先代二代目の真田輝久会長が揃って『本店スタッフの誰かが入れるお茶』をたまに所望すると、宇佐美店長の管理者としての資質も問われる。それが店長にとっては、かなりのプレッシャー。
特に小鳥。ここにアルバイトに面接に来た『理由』が皆によく知れ渡っている。
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