11.小鳥の夢とアルバイト

5/9
前へ
/316ページ
次へ
 ロイヤルコペンハーゲンのカップに珈琲を。同じシリーズの茶器でお茶を楽しむ準備を整え、トレイに乗せ店からスタッフルームへ。そこから事務所への通路を通り、二階に上がるケヤキの階段を上る。 「失礼いたします」  狭い事務所のドアを開けると、小さな応接ソファーに白いスーツ姿の女性と、白髪だけれどイタリア男性の如くシンプルな服をスタイリッシュに着こなしている年輩男性が向かい合って座っている。真田の父娘だった。  二人はすでに一つの書類を間に、額をつきあわせ真剣な顔でなにやら言い合っている。先ほど声をかけてきた眼鏡の専務は、会長の隣に座って神妙な面もちで黙って聞いていた。 「本日のオススメ、キリマンジャロです」  話し合いの邪魔にならないよう、控えめに声をかけ、床にひざまづいて各々の前にそっとカップを置き、ミルクピッチャーやシュガーポットを揃えた。  最後に、真鍋のおじさんの前に珈琲カップを置くと、そこで真田父娘の話し合いがぴたりと止まってしまった。  しんとした静けさの中、お偉いさんお三方の視線が小鳥に突き刺さる。 「二杯、とオーダーしたはずだ」  真鍋専務の眼鏡の視線が痛い。 「余計なことでしたでしょうか。申し訳ありませんでした」  頼まれていない三杯目を専務の前に置いた。それを小鳥はそっと下げようとすると、その手を真鍋専務に掴まれる。 「いや。ありがとう。小鳥」  おじさんとしての一言を耳にして、小鳥は少しばかりの反省をする。そんな小鳥の顔を見た白いスーツ姿の美々社長が笑った。 「知っている子供が淹れたから、ありがとう。でも、専務としては余計なことはするな。小鳥はちゃんとそれが解ったみたいよ。どうなの専務」
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2646人が本棚に入れています
本棚に追加