11.小鳥の夢とアルバイト

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 華やかな金茶毛をきらめかせ、いつもきらきらしている三代目、女社長の美々が小鳥の心中をすべて読みとっていた。 「気遣いが喜ばれることもあれば、余計なお世話になることもある。上司の指示を守らないと、それが仇になることもある。ただその気遣いが上司を助けることもある。難しいさじ加減ですね」  小鳥も同じことを感じとった。専務の『ありがとう』はおじさんとしてのありがとう。本当に上司として喜んでくれたのなら『小鳥』と呼ばず『滝田、ありがとう』と言ってくれるはずだから。  だけど、そこでいつも硬い面もちの真田会長がひとことでまとめてくれる。 「指示ばかり守る部下も困りものだがね。やりすぎないように」  娘の美々社長と真鍋専務がそれ以上なにも言わなくなったので、それが小鳥が注意すべきことだと理解した。 「心に留めておきます。ありがとうございました」  そこで三人が共に珈琲カップを手に取りひとくち。小鳥も緊張の一瞬。  でもそこで珈琲の出来については決して口にしない。評価は後ほど宇佐美店長に伝えられることになっている。  ――失礼いたしました。と、去ろうとしたとき美々社長が話しかけてきた。 「小鳥。今日は琴子さんのゼットに乗ってきたのね」  小鳥は目をそらしたくなる。出来れば、走りに無縁なアルバイト先の関係者には今回のことは知られたくない。  なのに。真鍋のおじさんが鋭い。 「まさか。小鳥。ついに事故ったとか言わないだろうな」  専務の言葉を耳にした途端に、真田会長の視線が険しく小鳥に突き刺さったので焦った。 「いえ。その、ぶつけられて。いまエンゼルは龍星轟で修理中です」
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