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「車屋の娘として走ることより、漁村のシーガルを、伊賀上マスターから継ぐのが最終目標だろう」
そう。それが小鳥の夢。
子供の頃から親しんできた、大好きなおじいちゃんのお店を復活させることが夢。
年老いて調子が良い日しか店を開けなくなってしまった。それまであの海岸線を走るドライバー達の憩いのカフェだったのに。
ただ。夜になるとひっそりとカクテルを作る。お客が来ても来なくても。一杯だけでも作る。それが伊賀上のおじいちゃんがひとつだけ続けていることだった。
子供の頃のような、あの穏やかなお店をもう一度復活させたい。それが小鳥の夢。
だから。街一番の喫茶店に勤めることを心に決めていた。もちろん、就職もここだと決めている。
この決意と目標はすでにこのお偉いさんは理解してくれていて、真田父娘も真鍋専務もその心積もりで育ててくれようとしている。
何故なら。このお三方も、伊賀上マスターの店を愛してきてくれたお客様だから。
会長が続ける。
「車屋の娘として許せない気持ちもあるだろうが、この先に大事なことが待っている。そのために今、なにをすべきか、避けるべきかよく考えるように」
つまり。走り屋娘の騒ぐ血に任せて、将来の夢を台無しにするような軽はずみな決断はしないよう。峠で無意味な勝負に熱くならないよう釘を刺されていると小鳥も気がついた。
「会長、ご心配ありがとうございます。軽はずみな行動にならないように努めます」
丁寧にお辞儀をすると、ほっとした顔をみせてくれる。
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