11.小鳥の夢とアルバイト

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 真田会長のお孫さんは小鳥と同世代で、海外留学中。会長もお孫さんに対しては、優しいお祖父ちゃま。だけれどいつまでもイタリア男のようなニヒルさを漂わせているお洒落なオジサマ。小鳥のこともまた孫のようにみてくれる時がある。時々『おまえの車に乗せろ』と言い出してMR2に乗りたがる。会長を乗せて峠を走ったこともあるし、漁村のおじいちゃんのところへ連れていくこともよくある。  真田会長は、伊賀上おじいちゃんが作るカクテルの大ファン。会長を連れていくと、カクテルを作れるのでおじいちゃんも喜んでくれる。  両親の顔が広いおかげで、小鳥はどこへ行っても、様々な大人達が支えてくれる。心からの夢をこうしてサポートしてくれる環境があった。だからこそ、甘えてばかりいてはいけないという気持ちも強い。      珈琲の評価が宇佐美店長から伝えられる。  まだ雑味がある。手際よくかつ丁寧にドリップするように。――とのことだった。  新人が淹れる珈琲だから、その評価は妥当だった。  伝えてくれた宇佐美店長の背中で、ほくそ笑んでいる女性がいる。 「当たり前よね。困るわよ。親の顔見知りとか、会長がお気に入りのカフェマスターの孫娘みたいな感じで、完全に縁故。丁寧に育成されて甘い評価なんて出したら、真田珈琲の人選する目を疑われるわ」  小鳥が真田珈琲の役員達と接触すると、怖い顔をする女性が一人いる。  勤続十五年というお姉さん。日野セイコさん。  小鳥が珈琲を言いつけられると必ず事務所で顔見知りの会話になってしまうので『縁故の贔屓』と怖い顔になり、小鳥の珈琲が厳しく評価されると正当な評価だと勝ち誇った顔をする。いわゆる真田珈琲本店のお局様だった。  まあ。いいんです。本当のことですから。  小鳥もそう心の中でつぶやき、気にしないようにしている。
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