12.もう一度、キスをして

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12.もう一度、キスをして

 バイトが終わり、銀色のゼットで国道を走る。  白のランエボ事件があってから、もとい、元カノ突然訪問があってから翔のマンションに行っていない。でも彼の顔は朝でかけるときに龍星轟でひと目は見ている。挨拶だけはしている。それだけ。片思いで彼と笑顔で挨拶が出来る毎日でも幸せだったあの頃と同じ。今は、ちょっと寂しい。  それになんだか、近寄り難い不機嫌な空気を翔兄から感じている。  気安く声をかけられる雰囲気ではなくて、小鳥は少し距離を置いて、彼のことをそっとしていた。だから、やっぱり寂しい。  どうしてあんな顔ばかりしているのかな。瞳子さんのことはきっぱり跳ねつけていたけれど、あれからも彼女となにかあったのかな? それとも、ただランエボのことで忙しいだけなのかな。気になっても素直に聞けない。自分らしくない。  大人の彼がなにを思っているのか、小鳥には推し量れない。つまんないことを言えば、子供っぽいことになるのかな。この前だって、後先考えずに飛び出して、お兄ちゃんを置き去りにした。心配してくれていたのに、小鳥はひとりで焦って慌てて、変なランエボを引き寄せてしまった――。またいつものように自覚より行動が先立って騒ぎになる。そうして大人のお兄ちゃんを煩わしたくない。  どうした、小鳥。ストレートなお前らしくない。そう言いそうな男の声が聞こえてしまった。  
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