12.もう一度、キスをして

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 店が閉まっても、龍星轟事務所の灯りはついている。この日も事務所に男たちが集まっている。ピットも煌々と照明がつけられていて、英児父のスカイラインR32GTRと、清家おじさんの愛車ホンダのCR-X、そして翔兄のスープラが入っている。従業員の車も調整をしているようだった。それを見た小鳥は、龍星轟総出で白のランエボに挑むその本気を感じずにいられない。胸騒ぎも止まらなくなる。  ゼットをガレージに入れ、男たちが怖い顔をつきあわせている事務所は避けて、自宅へ上がる階段がある裏口通路のドアへと向かう。  そのドアが触る前に開いた。 「小鳥」  今の今まで事務所で男たちが固まっていたのに、ドアを開けて現れたのは翔だった。 「お兄ちゃん。夜遅くまで、お疲れさま」 「小鳥こそ。バイトが終わったのか」 「うん。時間外でドリップの練習を見てもらってこんな時間になっちゃったんだけど」 「そうか。頑張っているな。お疲れさま」  やっと八重歯の笑顔を見せてくれたので、小鳥はほっとした。  彼の手には大きなゴミ袋。事務所でシュレッダーにかけた紙屑が入っている。それを裏の倉庫に持っていくところだったようで、そのまま裏手に向かっていく。  そっとしておきたいと思っていた小鳥だったが、大好きな八重歯の笑顔をやっと見せてくれた嬉しさが止まらず、つい彼を追いかけてしまった。  事務所用の倉庫に収集日まで置くために、彼がそのゴミ袋を持って倉庫に入っていった。  暗くて狭いその倉庫にいる彼に声をかける。 「お兄ちゃん。疲れていない。ずっと夜遅くて」  暗がりの中、彼が振り向いた。
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