12.もう一度、キスをして

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「会いに行きたいよ。でも、わかっている。だっていま、お兄ちゃんだけじゃなくて、父ちゃんも、整備のおじちゃんも、整備チームの皆も、武ちゃんも、矢野じいも、お客さんや仲間の車を傷つけられてなんとかしようと動いているんだもん。私、待てるよ」  小鳥の言葉を聞くと、さらに彼がきつく小鳥の頭を抱き寄せてくれる。  そして彼が静かに呟く。 「俺がいちばん頭にきたのは、小鳥とエンゼルがやられた時だ」  静かな声、でも息が震えていた。  彼を見上げると、小鳥を見下ろす黒い眼が険しくなっていることに気が付いた。 「あのMR2は、俺と小鳥の愛車だ。しかも小鳥が乗っているときに――」  もしかして。ここのところすっごく怒った顔で不機嫌だったのは、私のため? やっと彼の真意に気が付いた小鳥は震える。 「そんなに、怒ってくれていたの?」 「当たり前だろ!」  静かな彼の、憤る声が小鳥の胸に響く。 「翔、翔兄っ」  今度は彼の首に抱きついた。ぎゅっと抱きついて、そのまま小鳥は彼の唇にキスをする。  突撃のキスに、彼が『うっ』と小さく呻く。しかも今夜の小鳥はなにも厭わず、女の自分から彼の唇をこじ開けていた。  柔らかくて熱いものを小鳥は捕まえるように愛した。  翔も負けじと小鳥の唇を覆いつくすように吸いついてくる。今度は小鳥が呻く……。  小鳥が小さく喘ぐと、そこで翔から離れてしまう。  頬が熱い。自分からしたくてしちゃったキス。大胆に突撃したのは自分からなのに、小鳥はドキドキしていた。でも、もう恥ずかしくなんてない――。 「だから。そういう、顔で、俺を見るなって」
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