12.もう一度、キスをして

5/10
前へ
/316ページ
次へ
 どんな顔? 声にならず、でも彼の眼だけをじっと見つめる。あの翔兄も、大人のお兄ちゃんも、頬がほてっているよう……。お兄ちゃんの目が潤んでいる。だとしたら、私もそんな目で彼を見つめているの?  熱く見つめてくれる翔兄が言った。 「もう一度、してくれないか」  小鳥のそういうまっすぐさが、俺を元気にする。だからもう一度……キスを。  うん、いいよ――。  そう言おうとしたのに。突然、倉庫の壁に押しつけられ、翔から小鳥の唇にぶつかってきた。お前からしてくれと言ったくせに、待ちきれないみたいに彼から吸いついてきた。  背中を壁に押しつけられて、逃げ場がなくて。でも小鳥も逃げない。彼に押されたら、押し返すぐらいに抱きついて唇を吸った。  いままでにない激しいキス。彼に負けないよう濡れる唇をむさぼる。  スキ、好き、大好き翔兄。  キスとキスの間に熱い息で囁く。  体温と体温が混ざりあって、二人の体温が一緒になる。熱い体温。  唇と唇が濡れる音をたて静かに離れる。 「くそ。本当にタイミングが悪い」  壁に小鳥を囲ったまま、翔が拳を握って壁を叩いた。  彼が悔しそうに唸る。 「いまから親父さんたちと三坂峠(みさかとうげ)へ流しに行くんだ」 「三坂に? ダム湖じゃないの?」 「おびき寄せるコース的には、距離がある三坂が良いということになったんだ」  おびきよせる!? そんな作戦が開始されるんだと小鳥は驚く。 「それがなければ、このまま小鳥を連れて帰るのに」
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2646人が本棚に入れています
本棚に追加