12.もう一度、キスをして

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✿・✿・✿  指輪、せっかくもらったのに。    指輪だってハジメテ。  本当だったら、喜んで指につけるんだろうな。小鳥だってそのつもりだったのに。  いざそうしようと思った時――。 『小鳥。それどうしたんだ』  父ちゃんの鋭くなった目線が浮かぶ。 『姉ちゃん、それ指輪!?』 『似合わねえー。指輪がモッタイねえ』  可愛げがある弟と、可愛げのない弟の二人が面白おかしく騒ぎ立てるからかい。 『小鳥、それ指輪だよな。あー、もしかしてもしかして』  めざとい武ちゃん専務の意味ありげな目線とか。 『どうしたんじゃ、これ。小鳥、おめえ、男ができたのか!』  一番やっかいなのは、お爺ちゃんになってますます遠慮ない物言いで騒ぐ、矢野じい。  だめだ、だめだ。いちいち説明するのも、いちいち言い訳するのも、いちいちいちいち騒がれるのもイヤ!  しかも、皆にからかわられる小鳥を、送り主である翔兄も目撃するだろうし。あの静かなお兄ちゃんのことだから、騒ぎ立てられるのもきっと好きじゃないはず。  そんなふうに迷っているうちに指輪の指定席が決まった。 「はあ。こんなんでいいのかな」  二十歳になったら渡そうと思った。翔兄がそういって誕生日前に小鳥の手ににぎらせてくれた『合い鍵』、カモメのキーホルダーに指輪をつけた。  小鳥にとって、二十歳の誕生日にくれたプレゼントは、この『合い鍵』だと思っていた。小鳥にプレゼントをするなら『カモメがいい。小鳥じゃなくてカモメ』。『シーガルのオーナーになるのが夢なんだろ。だからカモメ』そう思って、翔兄が時間をかけて探してくれた貝細工のカモメ。そのカモメがぶらさげている銀色の鍵の横に、銀色のリングが光る。
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