12.もう一度、キスをして

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「これなら、いつも持っていられるもんね」  そういえば、翔からも『指輪どうした』とも聞いてこない。プレゼントを身につけてくれていなくて、がっかりしたりしていないか。でも……。この前の倉庫での様子だと『カノジョがプレゼントをどうしているか』よりも『カノジョの車をぶっ潰した野郎、許さねえ』――という状態のようだった。  あんなに怒ってくれていただなんて。  エンゼルは、俺と小鳥の愛車だ。  嬉しかった。小鳥を傷つけた男に怒りを抱き、そして、同じ車に乗った者同士、大切に思ってくれて。  唇がすりきれたような……、あのヒリヒリするキスの感覚がまだ残っている。  ちょっとずつ、ちょっとずつ。自分が彼にとって女であるのだと実感がわいてくる。    ✿・✿・✿    朝、遠く海が見えるリビングへ行くと、英児父が小鳥を見るなり言った。 「小鳥。おまえが淹れたコーヒーが飲みてえ」 「うん。いいよ」  琴子母が朝食を準備してる隣で、小鳥はドリップの準備をして湯を沸かす。 「淹れるなら、お母さんにもちょうだい。小鳥ちゃんの珈琲、おいしいもの」  朝は忙しいので、たまにしか淹れない。まだ腕にも自信がない。だけれど、両親は小鳥がバイト先で覚えてきた腕で淹れる珈琲をとても気に入ってくれていた。 「いいなあ。朝から娘が本格的なコーヒーを淹れてくれるだなんて」  喫茶業界で勤めたいことも、大好きなおじいちゃんのお店を継ぎたいことも、子供の頃からの夢。両親はそんな小鳥の気持ちをずっと前から知っているので、こうして応援してくれる。  ドリップを終え、英児父に珈琲を届ける。 「サンキュ、小鳥。やっぱ香りが違うわ」
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