12.もう一度、キスをして

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 嬉しそうに飲んでくれると、小鳥も嬉しい。  だけれど小鳥は気になっていたことを、機嫌がよさそうな父に尋ねてみる。 「父ちゃん。昨夜、三坂はどうだったの」  濃い珈琲を望んだのも、眠気が強いからなのだろう。 「ぜんぜん。俺ら以外は誰も走っていなかったわ。普通の通行車だけだったよ」  小鳥はほっとしてしまう。  父も翔も、従業員の皆も、あの乱暴な車に出会わなくてよかったと――。  もういいよ。あんな車のことは忘れようよ。私、もう、なんともないよ。そう言いたくなる。あんな粗暴なランエボに、誰にも接触してほしくない。そんな気持ちが広がっていく。  ねえ、父ちゃん。無茶しないで……と伝えようとしたのだが。 「ああ、小鳥。そろそろ伊賀上のおっちゃんに、いつもの届けておいてくれよ」 「うん、わかった。私もそろそろだなって思っていたんだ。今日はバイトがないから届けに行くよ」  そのとき、父が心配そうに珈琲片手に小鳥を見上げた。 「まさかとは思うけどよ。海際で野郎に出くわしたら、なにもせず俺でもいい、翔でもいい、店にいる武智でも。とにかく連絡しろ」  どこにいるか、どこから出てくるのか、皆目見当がつかない。  伊賀上のおじいちゃんがいる漁村までは、海岸線の一本道。一車線。田舎道のようで中心街と地方をつなぐ主要道路なので、峠と違って交通量が多い。 「あそこで暴れられたら、巻き添え車がいっぱいでちゃうよ。さすがにアイツもそこまでバカじゃないと思うんだけど」 「ああ。父ちゃんもそう思うけどな。用心しておけよ」  ため息をつきながら珈琲カップを気だるそうにテーブルに置いた父の目元が疲れていた。  これ以上、心配はさせたくない。
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