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嬉しそうに飲んでくれると、小鳥も嬉しい。
だけれど小鳥は気になっていたことを、機嫌がよさそうな父に尋ねてみる。
「父ちゃん。昨夜、三坂はどうだったの」
濃い珈琲を望んだのも、眠気が強いからなのだろう。
「ぜんぜん。俺ら以外は誰も走っていなかったわ。普通の通行車だけだったよ」
小鳥はほっとしてしまう。
父も翔も、従業員の皆も、あの乱暴な車に出会わなくてよかったと――。
もういいよ。あんな車のことは忘れようよ。私、もう、なんともないよ。そう言いたくなる。あんな粗暴なランエボに、誰にも接触してほしくない。そんな気持ちが広がっていく。
ねえ、父ちゃん。無茶しないで……と伝えようとしたのだが。
「ああ、小鳥。そろそろ伊賀上のおっちゃんに、いつもの届けておいてくれよ」
「うん、わかった。私もそろそろだなって思っていたんだ。今日はバイトがないから届けに行くよ」
そのとき、父が心配そうに珈琲片手に小鳥を見上げた。
「まさかとは思うけどよ。海際で野郎に出くわしたら、なにもせず俺でもいい、翔でもいい、店にいる武智でも。とにかく連絡しろ」
どこにいるか、どこから出てくるのか、皆目見当がつかない。
伊賀上のおじいちゃんがいる漁村までは、海岸線の一本道。一車線。田舎道のようで中心街と地方をつなぐ主要道路なので、峠と違って交通量が多い。
「あそこで暴れられたら、巻き添え車がいっぱいでちゃうよ。さすがにアイツもそこまでバカじゃないと思うんだけど」
「ああ。父ちゃんもそう思うけどな。用心しておけよ」
ため息をつきながら珈琲カップを気だるそうにテーブルに置いた父の目元が疲れていた。
これ以上、心配はさせたくない。
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