12.もう一度、キスをして

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「お母さんのゼットは絶対に傷つけない。だって、父ちゃんが婚約指輪より先に、お母さんにあげた婚約のプレゼントだったんでしょ」  琴子母が常々『私のゼットは婚約指輪なの』と聞かせてくれたから。エンゼルのように傷つけないよう、今度こそ守ってやると強く思う。小鳥も大好きな人から引き継いだ車を壊されて悲しかったから。両親の結納の証であるフェアレディZは絶対に傷つけないと心に誓う。 「っていうか、小鳥オマエ、なんで俺のスカイラインに乗らないんだよ」 「だから。前から言っているじゃん。重いの、父ちゃんのR32。なに、あのハンドル!」 「なんなら。オマエが乗る間だけ軽く調整してもいいんだぞ。オマエの手に合わせたハンドルにつけかえてやるし」  でも小鳥は首を振った。  普段は絶対に乗せない親父の愛車なのに、子供にたまに貸すことになり『どっちに乗りたいか』と尋ねて、毎回毎回、母の愛車を選ぶのが気にくわないらし。 だって。そのスカイランのほうが、おっかない車を引き寄せそうなんだもん。  父ちゃんの黒いスカイラインは、装甲車。重厚なオーラを漂わせ、龍星轟社長の威厳を放っている。それに攻撃してくる走り屋がいるとしたら、かなりのチャレンジャー。強気で向かってくる奴しかいない。  だから。そういう車をひっかけやすいって。乗っている本人は自覚していないよう?  たぶん。出会ったら力技でなぎ倒すか、ぶっちぎっているんだろうなと、娘の小鳥は父の豪快さを思い浮かべる。  父ちゃんを本気にさせたら怖いけど、あのランエボと真っ向対決したら……。惨劇を招きそうで小鳥は震えた。  
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