13.果樹園の魔女さん

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『二宮果樹園』。瀬戸内産のレモンをつくる農園としてその名を知られている果樹園。ここを『真鍋専務』の奥様、『真鍋珠里さん』が経営管理している。  両親は結婚披露宴を漁村喫茶で行った。その時、伊賀上マスターが真鍋夫人(当時、二宮夫人)にお手伝いをお願いしたことから、夫人と母が顔見知りになった。  伊賀上マスターが年齢と共にこの島まで買い付けにこられなくなった頃から、両親がマスターの代わりにこの果樹園へ買い付けにくるようになった。  こちらの真鍋一家の子供達と滝田家の三姉弟は年頃も近かったこともあって、島にくれば一緒にわいわいと遊んだ『幼馴染み』。  車を降りた小鳥は、よく知っている『二宮果樹園』へと歩き始める。緑の樹々がざわざわとさざめく小径へ入って、人の気配を探る。少し歩いて見つかるときもあれば、まったく見つからないときもある。そんな時は。 「こんにちはーーー! 小鳥です!」  青い空に向かって大声を張り上げる。  しばし風の音、そして波の音、樹々の囁き。 『おう。こっちやで』  男の人の声が少し近くから。 『いらっしゃいー。ここよー』  伊予柑の畑がある奥から女性の声。 『母ちゃん。俺が近いから、俺が行くわ』 『私も後で行くわー。キッチンにつれていってあげてー』  そんな二人の大声が、空の下、樹の上だけで交わされる。  どうやら彼のほうが小鳥により近いらしい。小鳥も声が聞こえた方へと歩き始める。  やがてゴム長靴で歩く音が近づいてきた。 「大洋兄ちゃん、こっち」  小鳥の声へとそのゴム長靴の足音がさらに近づく。 「しばらくやったな、小鳥」
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