13.果樹園の魔女さん

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 凛々しい眉に、ぱっちり大きな黒目。そんな美麗な顔で爽快に微笑むけれど、ゴム長靴に農作業着という男性がレモンの樹の影から現れた。  短髪の頭に黒のニット帽、そしてグレー作業着の胸元には『二宮果樹園』というオレンジ色の刺繍がある。  真鍋家の長男、『真鍋 大洋(たいよう)』。小鳥より一歳年上の幼馴染み。市内にある国大農業学部の三回生。  卒業後はこの畑を継ぐために、母親のもと二宮果樹園で働く予定だと聞いている。まだ学生だけれど、普段もこうして母親の手伝いをよくしている。  小鳥と同じ。これも彼が幼少の頃から抱いてきた夢。彼の場合はもうすぐそれが叶い、そしてそれを夢ではなく跡取りとして実現して行かなくてはならない。  島の幼馴染み。地元で地元のために勤しむ両親に育てられてきた子供同士、彼とは昔からとても気が合う。 「そろそろや思うてたわ。伊賀上のじいちゃんとこのお遣い」 「うん。今朝、父ちゃんにそろそろ行ってくれと頼まれてきたんだ」 「俺と母ちゃんも気にしてたところよ」  こっち来いや。と、農作業姿の彼が畑の外へと歩き始める。  畑を出ると二宮の家がある。この家は、大洋の母親『珠里さん』が真鍋専務と再婚する前に嫁いでいた家。ご主人を若くして亡くされ、その後も二宮のお嫁さんとして八年も女手だけで果樹園を守ってきた。やがて、この島の中学校でクラスメイトだったという真鍋専務と仕事で再会し再婚。そうして彼『大洋』が生まれた。  彼の母親は、再婚後『二宮姓』でなくなってもこの畑を引き継ぎ経営を維持してきた。自宅もこの島にあり、父親の真鍋専務がフェリーで通勤をしている島民一家だった。 「レモンもだいぶなくなったね」
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