2646人が本棚に入れています
本棚に追加
果樹園を少し歩いて、小鳥は季節を感じた。春を前にして、僅かに残したレモンの収穫が終わってしまう。
「そやな。今年もぎょうさん収穫できてよかったわ」
「お疲れ様。二宮のレモンが一番だよ」
心からそう思っているので毎回挨拶のように小鳥は言う。そうすると、大洋が本当に太陽のように嬉しそうに微笑んでくれる。
惜しいな。かなりのイケメン。いや美男子? きっと美人のお母さんに似たからだと小鳥は思う。島の外、大きな会社のオフィスでスーツ姿で働いていたらきっと女性たちが放っておかない。実際に、大学でもかなり女性に声をかけられるとか。だけれど真面目で向かうところ真っ直ぐ『俺がやりたいのは畑!』。それしか見えていないような生き方をする大洋兄貴の本質を知ると、遊びたい盛りの女子大生はすぐに避けてくれるようになるのだとか。
真っ直ぐなところは、父親の真鍋専務に似たのかなと小鳥は思っている。それに最近、背丈が伸びて、男っぽい骨張った輪郭になってきた大洋兄貴は、顔は母親似なのにやっぱり男だからなのか、横顔が真鍋専務に似てきたなと感じることが多くなった。
「紅茶こさえるから。そこ座っていろ」
二宮宅、庭の奥に菓子作り専用に立てられた『二宮スイーツキッチン』。この果樹園の素敵なところは、丹誠込めて作られる畑の柑橘が、このキッチンで素晴らしいスイーツに生まれ変わること。
ここから企画されて、島から街の真田珈琲で売り出されヒット商品になったものが多い。そのスイーツも、ここの二宮家のカネコおばあちゃんをはじめとしたお嫁さん達がごくごく日常的にこしらえてきたというもの。
最初のコメントを投稿しよう!