13.果樹園の魔女さん

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「でも小鳥ちゃんも、真っ直ぐね。うちの涼さん、小鳥ちゃんが来てくれること、ずっと楽しみに待っていたのよ。父親みたいな顔で。うち娘がいないし、大洋は畑のほうに来ちゃったし。それでも若い子を育てていきたいでしょう。知り合いの子が地元で頑張るって言ってくれるのが嬉しいのよ」  それも何度も聞かせてくれた奥さんからの言葉だった。知り合いだからこそ、わだかまりができないか、こちらの珠里おばさんも案じているのだろう。小鳥の顔を見るたびに、近頃は『あの人、厳しいけれど』と言い出すようになった。それだけ滝田家といままで通りのお付き合いを壊したくないと大切に思ってくれているのだと小鳥もわかっていた。 「おばさんもお腹すいちゃった。一緒にお茶にしましょう」  農作業着だけれど、そんな麗しい匂いを漂わせる幼馴染みのお母さんが、大きな業務用のオーブンから本日のスイーツを取り出す。  キッチンの片隅には丸いアンティークなテーブル。そこに息子の大洋が優雅にティーカップを並べてくれ、美しすぎる果樹園の魔女さんが、大きなホールパイを置いた。 「わあ。今日はパイだ。なんだろう」 「今日はベイクドレモンパイ」  魔女さんの仕草は、とても美しい。ホールのパイを切り分ける、それだけでも美しい。小鳥は幼い頃から、この綺麗なおばさんのそんな女らしさに、いつもうっとり釘付けになる。 「どうぞ、召し上がれ」  目の前に、シンプルなパイが置かれる。 「おいしそう! いただきます!」  元気に素直にとびつく小鳥を見て、よく知ってくれている兄貴もおばさんも楽しそうに笑ってくれる。
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