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「いつもはレモンクリームのレアタルトパイだけれど、今日はレモンのマーマレードを使ったベイクドパイにしてみたの」
「おいしいー。酸っぱいのがいい。レモンが沢山採れる季節限定のスイーツってことだね」
ほんとうに珠里おばさんがつくったスイーツは最高。小鳥はいつも、何度もそう言って頬張る。これが目当てでやってくる営業さんも多いというのも頷ける。
元気な小鳥の目の前で、よく似た母と息子が、静かに優雅にティーカップを手にしてまずお茶をひとくち。お育ちというのか。どんなに汚れた農作業着姿でも、母子の仕草は優雅に揃っている。もともとお嬢様育ちだという珠里おばさんと教師が父親だったという真鍋専務は、どこか知的で落ち着きある夫妻。そんな両親に育てられた大洋もまた、そういう品性がみて取れる男になっている。
「オマエ、相変わらずよく食うなあ」
丁寧に食べている大洋だが、それでも小鳥より先におかわり。もう一切れ皿に載せている。
「大洋兄こそ、よく食べる! 男のくせに、ほんと甘党なんだから」
「俺、このキッチンの菓子で育ったようなもんだからな」
なんだかんだいって、プロ並みにお菓子を焼く母親と喫茶業界に携わっている父親との間に生まれた子。これでもかという甘党振りを見せつけてくれる。
「小鳥、今日の内に長浜に届けに行くんか」
「もちろん。明日はまたバイトだもん。じいちゃんにも会いたい」
「ほんまご苦労さんだな。俺らがチビっこい時は、伊賀上のじいちゃんも自分でワーゲンバスを運転して島まで来てくれよったのに」
「もう長浜から中心街に出てきて、それからフェリーという道のりがしんどいんだって」
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