13.果樹園の魔女さん

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 小鳥が大学生になった頃から、伊賀上のおじいちゃんががくんと弱くなった。それからは滝田家が二宮果樹園の柑橘を漁村へ届けるようになった。 「うちのカネコばあちゃんも、ひとまず元気だけど畑から離れると、呆けがでるんだよな。だからちょっとだけ担当の樹をもたせて畑仕事やっとるわ。なあ、母ちゃん」 「そうね。動いているほうが良いみたい。もうね習慣になっているのよ。畑を歩くことが。でも足腰弱っているから、おばあちゃんが歩いている時は目が離せないわね。大洋がそばにいると言うことを聞くみたいだから、お願いしているの」  元気でいて欲しい。でも老いていく大好きな家族。血が繋がっていなくても、家族。真鍋家にとってそれが二宮のカネコおばあちゃんに紀江おばあちゃん。滝田家にとっては、漁村の伊賀上マスターがそうだった。 「そうなんだ。伊賀上のおじいちゃんも最近は物忘れが激しいみたいなんだよね。だからお店を開けられなくなっちゃったわけだし」 「そやけど。カクテルは毎日作らせているだけでも全然違うと思うからよ、やりたいだけやらせてやれよ」 「わかった。でも寂しいね。おじいちゃんとおばあちゃんが元気じゃないと」  困ったな。困るね。嫌だな、大好きなじいちゃんばあちゃんが年取っちまうのは。うん、ヤダ。気が合う二人の会話はいつもこう。  そんな気の合う会話をしている子供達を眺めていた珠里おばさんが笑う。普段、あまり思いきり笑う女性ではないのに。 「うふふ。貴方達って、ほんとうに、小さな頃から変わらないわねー」  でも。それが『嬉しい』とおばさんは言う。
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