13.果樹園の魔女さん

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 いつものお茶をちゃっかり頂いた後、珠里おばさんが籐の篭に、レモンや紅マドンナ、伊予柑などの柑橘を盛ってくれる。 「それでは頂きます」 「こちらこそ、有り難うございます。小鳥ちゃん、伊賀上マスターにもよろしく伝えてね」 「はい。珠里おばさん。伝えておきます」  まだ漁村へと向かわねばならない小鳥は先を急ぐ。  篭を持って、果樹園の小坂の下へと駐車している車へと歩いていると、大洋が追いかけてきた。 「これ。昼飯の残り。途中で腹減ったら食えや」  茶色の紙袋を差し出され、小鳥は受け取る。開けてみると、生ハムのサンドウィッチ。 「真鍋さんちの生ハムサンド大好き。サンキュ、大洋兄ちゃん」  喜ぶ小鳥を、大洋がらしくない顔で見下ろしている。しとやかなお母さん、生真面目で厳格なお父さん、そんな両親から生まれたにしては、大洋は陽気でおおらかでひょうきんなところがある。弟の蒼志(そうし)のほうが落ち着きがあったりする。そんな大洋が浮かぬ顔。 「どうしたの。大洋兄」 「あのな、オマエ……。璃々花(りりか)からなんか連絡もろてないか」 「え。璃々花姉さんから? ううん。私もしばらくは音沙汰ないよ。だって海外で修行中だし」 「そっか。なら、ええわ」  璃々花お姉さん。真田珈琲の一人娘。つまり真田珈琲将来の四代目。会長のお孫さんで、美々社長の娘。小鳥より二歳年上で、大洋にとっても一歳とはいえ年上の女性。  彼女も幼い頃から、この島で遊んだ一人。でも、皆より年上の落ち着いたお姉さん。こちらも家業の影響で、ただいまヨーロッパでカフェの勉強中。なかなか日本に帰国しない。 「連絡があったら教えるよ。大洋兄のことも伝えておくね」
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