14.恋はいちごの香り

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「ああ、大洋にもしばらく会っていないな。果樹園のお手伝い、頑張っているみたいだね」  本当はおじいちゃんも、あの素敵な果樹園に行って、あの空気を吸いたいんだな――。小鳥はそう感じた。 「じいちゃん。今度は私と一緒に行こうよ。珠里おばさんと大洋が喜ぶよ!」  元気に言うと、おじいちゃんも笑顔になってくれる。 「そうだな。小鳥の運転で連れていってもらおうかな」  昔は逆だった。島に遊びに行った時におじいちゃんもやってきて、そこの水色のワーゲンバスに子供達をいっぱい詰め込んで、島の海水浴場まで連れて行ってくれた。しかもおじいちゃんが一人で子守りをしてくれて――。  小鳥に、聖児に玲児。真鍋の大洋に、蒼志。そして真田の璃々花姉さん。子供達みんなの優しいおじいちゃんだった。そして親たちにとっても、伊賀上マスターは『お父さん』でもあった。 「まだ冷えるね。さあ、おはいり」  海辺のモダンな家にお邪魔する。  どの部屋も洋式だけれど、一室だけ和室がある。そこで母親の介護をしていたのだとか。おじいちゃんの部屋も一階にある。和室の直ぐ隣。そして小鳥はそこもお気に入りだった。  真っ白な出窓の部屋。おじいちゃんなのに、ギンガムチェックのベッドカバーをいくつも持っていて、そして古いレコードやCDのラック。なによりも大量の本。バーテンダーはたくさん本を読まないといけないらしい。様々なカクテルが持つ物語と歴史は隣り合わせ。お客様から説明を求められなくても、そのカクテルで物語って酔ってもらわないといけないから――と言っていた。
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