14.恋はいちごの香り

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 そこは『伊賀上祥蔵(いがうえ・しょうぞう)』の世界。出窓を開けると海が見えて、波の音が聞こえて。そして小鳥が知らない大人の音楽。おじいちゃんの本の匂い。おじいちゃんが料理する匂い。  ここだけ『フロリダ』。真鍋会長がそういう。伊賀上マスターの店に行くと、キーウェストのヘミングウェイの気分だって。時々、窓の下をのんびりと横切っていく黒猫とか、ちょっと魚の匂いがする風とか。この家のなにもかもが大好き。おじいちゃんのおうち。小鳥の田舎のおじいちゃん。  そんな雰囲気の家に今夜もお邪魔する。介護のために建てられただけあって、バリアフリー。リビングは吹き抜けで天井にはブロンズ色のシーリングファン。壁も窓枠もアンティーク調の階段手すりも真っ白で、二階の窓から燦々と日射しが降りそそぐ。介護したお母さんも、そんな家をとても気に入ってくれたんだとか。  今日は夜だから、その窓からは星空が見える。月が綺麗に見える日もある。そういうなにもかもが、中心街でも珍しい設計。建ててからだいぶ時が経ったとはいえ、だからこその趣も加わって、まるで海辺の別荘のよう。  暖が整っているリビングで、おじいちゃんは映画を見ながら食事中だったようだ。 「小鳥もお腹が空いているだろう。好きなものを作ってあげよう。食べていきなさい」 「うん。いただきます!」  おじいちゃんのご飯大好き。小鳥は『私も手伝う』と、厨房のような作りになっているキッチンにマスターと一緒に向かう。  キッチンも見事な設計。厨房と言っても、こちらは二宮キッチンのような料理のためのというより、『お酒のためのキッチン』だった。
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