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「いつか愛した男性と一緒に使って欲しいな。小鳥の花嫁姿が見られないかもしれないから、いま贈っておこうね」
「ヤダよ。おじいちゃん。そんなこと言わないで……」
きっと伊賀上マスターも、小鳥が誰を好きか知っているはず。ずっと真っ直ぐにその人だけを見てきたことを、黙って見守ってくれていたのだろう。
それが誰か琴子母同様、おじいちゃんも口にはしない。
「でも嬉しいな。やっと小鳥に僕のカクテルをご馳走できるね」
あ、ほんとうだ。
小鳥もこぼれそうになった涙を止めて、そのグラスを手に取った。
「おじいちゃん。これに……カクテルつくって。私の初めてのお酒だよ」
伊賀上マスターがちょっと驚いた顔をした。
「てっきり。もうお友達と呑んでしまったのかと思っていたよ。でも、」
おじいちゃんがゆっくりと立ち上がる。
「初めてでも、初めてでなくとも。誕生日を迎えた小鳥が会いに来たら、そうするつもりだったんだ。お父さんとお母さんには僕から事情を説明しておくから、今夜は泊まっていきなさい」
「うん。そうする。嬉しい! 私の初めてのお酒、おじいちゃんのカクテルになって嬉しい」
「この時の為に、僕ね、小鳥のためのカクテルレシピを考えておいたんだ」
え、私のためのカクテル? 小鳥は目を見開いて、大きなおじいちゃんを見上げる。
「そうだよ。さあ、そのグラスを持って、キッチンにおいで」
お祝いのグラスを持って、小鳥は嬉しくて嬉しくて、優しい熊さんのようなおじいちゃんについていく。
食器棚の前には、小さなカウンターが設えてある。
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