2.お兄ちゃんが待ってる

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 特に、あそこ。小鳥は目線をそこへ向ける。美人の花梨は容易に落とせないとわかっている男子が、酔った勢いで最後に悪ふざけをするところも決まっていた。 「小鳥が飲めないなら、代わりにスミレが飲め!」 「だめですよ。私まだ未成年です」 「お前達、堅いな。本当はこっそりみんな、大学に入ったらアルコールデビューしているんだぞ」 「ひとくちだけ、ひとくちだけな。来年、成人する前の練習だよ、練習」  スミレを始めとしたおとなしめの女の子が二、三人固まって座っているところへと、男達が集まる。  毎度のパターンは決して覆ることなく、小鳥と花梨は一緒にため息をついた。 「んーもう、しょうがないな。聖児のために行ってくる」 「はあ、聖児のため……」  小鳥は苦笑いをこぼした。  スミレが龍星轟へ頻繁に訪ねてくるようになってから、いつのまにか……だった。弟と後輩のスミレのふたりは密かに交流するようになっていた。たぶん、まだ『交流』。交際じゃなくて交流。それとも? 彼等なりにもうお付き合いはしているのかもしれない。  見ていたらわかる。スミレは奥手な女の子で男子の前ではそれほど積極的ではない。むしろ警戒して一歩引いているところがある。だけれど、聖児と向かうと外では見せない笑顔で快活に話したり、ふざけあったりしている。聖児も同じく。高校入学当時はいきなり茶髪に染めたりして気怠そうなヤンキー男を気取っていたが、スミレと出会った途端に黒髪に戻し、それからは硬派な強面男として一目置かれるようになっていた。
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