14.恋はいちごの香り

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 そこに伊賀上マスターが出したのは、凍らせた『苺』、『ラズベリー』、『クランベリー』。そして今日、小鳥が二宮からもらってきたレモン。そしてリキュールの棚からいくつかの瓶が並べられる。  今夜はシェイカーではなく、小さなミキサーにクラッシュド・アイスと、ベリーと、レモン、そしてリキュールが入れられる。それをおじいちゃんがミキサーでブレンドする。  真っ赤なフローズンタイプのカクテル。それが新しいバカラのグラスに注がれる。最後にミントの葉がちょこんと乗せられた。 「苺が大好きな『リトルバード』だよ」 「……それ、このカクテルの名前?」  おじいちゃんがにこりと笑って頷いてくれる。 「苺が好きな女の子が、ちょっと背伸びをして初めて呑むカクテルという意味」  それが『リトルバード』。まだ飛べない小鳥さん、どうぞ召し上がれ。あまりにもいまの自分にピッタリで、さきほどやっと抑えた涙がまた滲んだ。 「いただきます」  静かに、冷たいグラスを手に取った。  とろっとしたフローズンをひとくち。口の中に、小鳥が大好きなベリーの香りが広がる。そして二宮のレモン、初めて味わう香り高いリキュールの甘みと苦み。そっと飲み込むと、喉と胸にぽっと熱いものがともる。  これがお酒の味、身体がお酒を知るとこうなるの。まるで……。お兄ちゃんが好きで、好きで、たまらないって。あの狂おしい気持ちになった時と似ている? 「お酒て、恋するみたい」  ふと思ったことを呟いたのに、伊賀上のおじいちゃんが驚いた顔をした。 「……小鳥。ほんとうに大人になったんだね。女としても幸せになりなさい」
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