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いつもは邪魔をすまいと、こういう時は事務所を避ける小鳥だが、今日は我慢できずに事務所に駆け込んだ。
「父ちゃん、ただいま」
小鳥が帰ってきた姿を見て、どうしてか龍星轟の男達がホッとしたような顔をした。だが小鳥は『マコちゃん』を見て青ざめる。
「ま、慎ちゃん。どうしたの、それ」
額にガーゼを張り付けた手当がしてある。少し血が滲んでいて小鳥はますます驚き硬直した。
「昨夜。社長と兄さん達が三坂を流している時、俺は遅くまで付き合わなくていいからと桜三里を走っていたら、アイツに出くわして――」
桜三里!? 三坂とまったく方角が違う峠にアイツが出た。龍星轟の男達がいることをわかっていたのか、わかっていなかったかは定かではないが、英児父がここと決めた場所とはまったく異なるところに出没したらしい。
もしかして。小鳥はハッとして、事務所を飛び出した。
ピットに飛び込むと、慎のホンダNSXも小鳥のMR2のように前面バンパーに激突痕、そして助手席のドアがへこんでいた。つまり、今回もアイツは小鳥の時同様に『相手がミスして自損事故になるようにもっていく』のではなく、『関係ねえ。オマエはぶっ潰す』と体当たりをしてきたということ!
『小鳥の時だけ、ワザとぶつかってきた』。おじちゃん達が感じたように、小鳥もそう思っていた。だからアイツの底知れない気持ちに恐怖を抱きながら、怒りも消えない。今回も同じ! アイツは慎の車だとわかっていて、ぶつかってきた。だとしたら……。
そこに思い浮かんだことと、男達の何とも言えない異様な空気が一致し、小鳥は再び事務所に駆け込んだ。
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