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「わかった。だが一人で抱え込まれても困る。どんな小さなことでも、アイツをしとめる為の考えに入れておきたい。確証があるにしろないにしろ、三日後には確証がないことでも俺に報告してくれるな」
「わかりました」
話が終わり、英児父が大人しくなってしまった小鳥を見下ろしていた。
「おめえみたいなチビが敵う男じゃねえわ。そんなのわかっているんだろ。エンゼル、乗せてやれ」
敵わない父と大人の考えで動いていた彼の間で、なんの役にも立てないことに項垂れた小鳥も力無く頷くだけ。
だけど、そんな翔は小鳥を見て微笑んでくれている。
「あと少し、エンジンと足回りのチェックをしたいから、修理完了は夜まで待ってくれ」
「うん、いいよ」
「今夜、一緒にエンゼルの復帰走行しような」
いつもの八重歯が見える素敵な笑顔で、さらっと言った。英児父の前で……、さらっと『今夜一緒にと』さりげなく。それだけ言い残して本日の業務へと去っていった。小鳥は絶句して固まっていただけ。
父親の目の前で今夜のお誘いを言い残していったので、小鳥は恐る恐る横目で父の様子を窺う。
「ったく。爽やかに言いやがって」
父もそれだけ吐き捨てると、社長デスクにどっかりと座り込んだ。
「学校が始まるんだろ。はよう行ってこいや」
不機嫌そうに口元を曲げたまま、それっきり小鳥の顔も見ないし、デスクトップのパソコンに開いた画面を見つめたままなにも言わなくなった。
娘の面倒を見てくれる兄貴? それとも……娘が幼い頃から憧れている男。その男と娘が車を通してどこへ行こうが、だいぶ前から父はなにも言わない。
娘がその男に想いを寄せていることを知っているくせに。
父ちゃんもなにを思っているのだろう。翔と男と女の関係になっていると知ったらどう思うのだろう。
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