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エンゼルが帰ってきた!
真田珈琲本店のアルバイトを終えた小鳥は、龍星轟に一直線。ガレージにフェアレディZを停めて、さらにピットへと一直線。
「おかえり、小鳥」
龍星轟のジャケット姿の翔が待っていてくれた。
「なおってる~。うわーん、エンゼル、おかえり!」
壊されていたライトも綺麗に元通りになっている。そこに小鳥は頬をすり寄せた。
「ありがとう、お兄ちゃん。整備のおじちゃん達が、翔兄がいちばん頑張ってなおしていたから、礼は翔に言ってくれって……」
彼が照れくさそうな笑みで俯いた。
「腕前は兄さん達に敵わないんだけれど、どうしても、自分で出来るところは俺の手でなおしたかったんだ」
元は俺が気に入って乗っていた車だから。いまはカノジョの愛車だから。そう言いたそうな目で、彼も小鳥の隣に跪いてバンパーを愛おしそうに撫でている。
小鳥はその手にドキリとする。その手がゆっくりと、優しいだけではない愛猫の毛並みに指先を柔らかに沈めていくような熱っぽさを感じてしまった。そんな手で、私も触ってくれていた。私の肌に吸いつくように撫でてくれたあの手とそっくり……。
「今夜はどうするか。峠は勝手に行かないよう禁止令が出ている。直ぐに帰ってこられる海辺を走るか」
バンパー前にふたり揃って並んで座っている。直ぐそこにお兄ちゃんの八重歯の笑顔。
「う、うん」
「今夜は俺が運転席で、小鳥が助手席だ。いいな」
この前みたいにここでキスしたら、今度は怒られるかな。
やっぱりお兄ちゃんの顔がそばにあると、ドキドキする。いままで感じもしなかったお兄ちゃんの手にもドキドキする。
好きで好きで大好きで……。
でもいまお兄ちゃんの頭の中は、車のことだけみたい。
だから小鳥は溢れてしまう想いを、胸の奥に押し込める。
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