2647人が本棚に入れています
本棚に追加
車の音で小鳥は感じ取った。もどかしくてアクセルを踏む、思い違いだったのかと知ってアクセルを緩める。もしかして、彼も……若い小鳥のことがわからなくて、もどかしく思っている?
「慣れていないから。女が喜びそうなことを先回りしてやるってことが、かえって空回りしている気がする。誕生日のケーキとか、誕生日のハジメテとか。あと……指輪な……」
ハンドルを握っている彼の目線が、ふっと小鳥の手先に落ちてきた。
「俺、もしかして勘違いしている? なにもかも」
えー。お兄ちゃんも、そんなふうに、どうして良いかわからなくて戸惑うことってあるの? 意外すぎて小鳥は言葉が出てこなくなる。
「小鳥ぐらいの女の子が、なにを喜んでくれるかわからないんだよ。ああ、違うか。女性全般、俺は鈍感すぎる。だから、その、頑張ってみると勘違いしているとか……さあ」
「ち、違うよ! 誕生日のケーキなんてお兄ちゃんは準備しないと思っていたから逆に嬉しかったよ。誕生日のハジメテだって、私もそのつもりだったし。でも……私が台無しにしちゃったんじゃない。指輪だって……ただ、ただ……」
前方をみてひたすら海岸線を走っている翔の目つきが変わる。鋭く遠く、なにかを探しているような寂しい目に。
「指輪は、余計なお世話だったか。大人すぎたか。それとも……」
気にしてくれていたんだ。でも贈った立場を考えればそうかもしれない。そのプレゼントの行方を気にしないはずがない。
最初のコメントを投稿しよう!