17.ランエボ男の正体

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✿・✿・✿  海辺を離れ、翔が運転するMR2は静かな民家町の車道へと入る。  お遍路(へんろ)さんがお参りする八十八カ所札所のお寺がいくつかある寺町。古くて狭い車道ばかり。街から離れた古い町。信号も少ないけれど、そのぶん、人が歩いていたり信号なしの横断歩道を渡ることもあるので慎重に走らなくてはならない道がある地域だった。  そこをMR2は、うしろのランサーエボリューションの影を感じながら、ダム湖へ向かう。 「お兄ちゃん、後ろに来たよ」  ライトを点けた白い車が見えると、翔がハンドルを切って細かい道をすぐに曲がる。 「たぶん、俺の方が道を知っている」  妙に断定的に呟く落ち着きに、小鳥は首を傾げる。  なんだかお兄ちゃん。もうランエボのドライバーが誰か判っているみたい? そう思うほど、落ち着いている。  ステアリングを回しながら、翔の目は鋭くフロントミラーを何度も確認している。  だけれどとても冷静。慌てた無茶なスピードも出さず、信号無視もせず。まるで後ろにやってくるランエボとの車間距離や追いつかれるスピードも計算し尽くされているかのようだ。  仕事で見せている以上のクールな面持ち。一重の涼やかな目元から放たれる眼差しは、夜明かりの中、ぎらりと研ぎ澄まされている。  古い民家が並ぶ、寺町、町はずれの道。狭い車道をMR2は順調に進んでいく。そして後ろを振り返ると、ランエボがいない――。 「お兄ちゃん。ランエボが見えなくなっちゃったよ。これじゃあ、アイツ、諦めて追いかけてこないよ」 「大丈夫。絶対に追いついてくる」  また奇妙な気持ちになる。なぜそんな断定的に言い切れるのかと。
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