17.ランエボ男の正体

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 もし本当に『怨恨』だったなら、どうして――。大学時代からの友人や、龍星轟で知り合った顧客と親しくなっても、翔はそつなく付き合っていて人間関係は順調だと思う。  そんなお兄ちゃんだから、安心してそばにいられるというのもあるのに――。 「もうすぐダム湖へ上がる峠道だ」  それを目の前にして、信号が赤になる。後部を気にしながら翔がブレーキを踏んで停車した。  小鳥も振り返ったが、この信号で停車することを考慮していたのか、だいぶ引き離した後だった。 「小鳥、ダッシュボードにあるものを出してくれ」  言われたとおりにすると、ダッシュボードの中に耳掛け用の小さなインカムと無線機がでてきて、首をひねった。 「ランエボを特定する作戦の為に、武智専務が登録許可の準備をしてくれて、それで社長と運転しながら通信が出来るんだ」 「え! そんな準備までしていたの!?」 「急いでくれ。アイツがもう来る」  説明は後、ハンドルを握ったまま頭だけを小鳥へと傾けてきたので、小鳥も黙って彼の耳にインカムヘッドセットを取り付けた。 「三坂でつかっていたままだからチャンネルは合っている。スイッチをいれてくれ」  スイッチを入れると、耳になにか届いたのか、翔が目をつむった。その途端、後ろからハイビームのライトが当たる。ランエボがすぐそこまで追いついてきた。  信号はもうすぐ青。交差点の歩行者用信号機が赤になったところ。翔がフロントミラーで後部を確認しながら、ギアを握り、アクセルをふかした。 「社長。桧垣です。いま真後ろにランエボが追いついてきたところ。いまから峠に入ります」  もう父と会話をしていた。向こうも装着して走行中らしい。
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