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「え。まさかここまでのことやっておいて、逃げるつもりなの!?」
本当に卑怯! 手強い男が出てきたから、もうここでオシマイ? そのまま逃げる? だが翔がそこで教えてくれる。
「そういうヤツだよ。あの瀬戸田という男は――」
その男となにがあったのだろう? あのお兄ちゃんが憎々しい表情を刻んだ。
でもその逃げていくランサーエボリューションをMR2が追いかける。
すぐに向こうのテールランプを捕らえる。
「もうすぐ頂上だよ、翔兄」
「どうであろうと、頂上までにアイツを抜く」
対向車線を走行することも厭わない。英児父がいざというときその禁じ手を一瞬だけ使ったように。翔もその決意を固めていた。
「わかったよ、翔兄。ダム湖から降りてくる車が対向車線に来るかどうかは私が無線で確認するから、思いきり行って……」
どんなお兄ちゃんでもついていくよ。怖くないよ。アイツが私たちのエンゼルに襲いかかってきても。これからお兄ちゃんにどんな辛いことが起きても――。
一緒にいるよ――。
心で唱え、小鳥も前を見据える。
ふたりの愛車はエンゼル。並ぶシートで、気持ちはひとつだって。いま小鳥はしっかりと感じている。
子供みたいな私をどうして? そう思っていた。
でも自分の想いは、小鳥が想う形のまま彼に届いていた。それが嬉しい――。
あのランエボを抜き去った向こうで、きっとまた大好きなお兄ちゃんが笑ってくれるはず……。
――そう祈って。
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