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有利なカーブ接戦にも負け、前を抜かれ先導まで獲られたランエボが怒り狂ったようにMR2の背後に食らいついてくる。
そこで翔が強く小鳥に言った。
「小鳥。イチかバチか危ない賭けをする。でも……俺を信じてくれるか」
それが何か判らない。でも迷いなんてない!
「信じるよ。私、今夜も翔兄の隣にいる!」
「最後だ。荒っぽいことをする。掴まっていろ」
頷き、小鳥はウィンドウ上にあるバーに掴まる。真後ろにランエボがひっついてくる。だが翔はさらにスピードを上げた。もうこの峠道では限界の……。だが、ぐんぐんとランエボを引き離し始める。それでも車二台分ぐらいの車間距離しか引き離せない。向こうもアクセルを踏みこんで必死に追ってきている。
頂上が見えてきた。
「あそこでキメる」
翔の目線が峠のてっぺん、ダム湖駐車場入り口へと固定された。
――ダム湖駐車場に追い込む。 彼がそう言っていたことを思い出した小鳥は、翔がそこでなにをするかもう感じ取っていた。
てっぺんが来た。小鳥の腕も足もうずうずして動きそう。そうそこでブレーキ踏んで、ハンドルを回して――! MR2のリアがまた滑る。夜の峠道、ど真ん中の車線、そこでMR2がくるっと回って停車した。
身体を右へ左へと大きく揺れた小鳥の身体もぴたりと止まる。顔を上げると、息を切らしている翔が車を停車させた状態で、でも、また次の発進に備えてギアを握り直している。
峠道のど真ん中。どちらの車線も塞ぐように、エンゼルが横になって道路を遮断している。どちらの道も通さない。ランエボを逃さないための体制を、ランエボを先に振り切った翔が先手を打って整えていた。
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