18.アイ、あい……、愛?

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 先手の体制を整えたのも一瞬、すぐにランエボのライトがもう目の前。このまま突進されると、翔の運転席に激突する。  そして小鳥はさらに気がついた。道を塞ぐためだけじゃない。お兄ちゃんは、彼がそう願っているから、彼の望み通りに自分を差し出しているんだって……。  それはとても危険な賭け。小鳥は、やめて――と叫びそうになったが、すぐに噛み殺した。  これだったのだ。荒っぽいことをする。危ない賭けをする。でも俺を信じて、俺の隣にいても大丈夫かと。危ない自分の考えのその隣で、小鳥のことも危険にさらしてしまう。 『小鳥! ドアを開けて降りろ!』  耳に付けている無線から、武ちゃんの声。でも小鳥は声で返答はせずそっと首を振り、耳からインカムを取り去る。  私、ここにいる。彼の隣にいる。武ちゃん、父ちゃん、ごめんね。 「来い、これが望みだったんだろ。俺もエンゼルも、ぶっつぶせるもんならやってみろ」  決して荒ぶるような声を張り上げない。でも低く震える声には、彼の秘めに秘めた怒りが込められている。  小鳥はまた彼の手にそっと触れる。ぎゅっと握った。もう集中している彼は、さっきみたいに優しく重ね返してはくれなくても……。 「来い、来いよ――」  望みどおりに白のランサーエボリューションも迷いなく停車しているMR2へと突進してくる。  でも小鳥は翔の眼を見て察していた。お兄ちゃんは、最後の最後、あのランエボが衝突なんかしないで回避してくれることを信じているんだって……。だから小鳥もそれを信じる。私たちは潰されない。ランエボは、お兄ちゃんの昔の知り合いは、きっときっと。
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