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そしていま、二台はぴたりと並んでダム湖の駐車場をまっすぐ突き進んでいる。今度、小鳥の目の前に飛び込んだのは、ダム湖落下止めのコンクリート。この前、小鳥がエンゼルの後部をぶつけたあのコンクリート。
そこへ翔のMR2とランエボXが競い合うように突進している。
まるで周りが見えていないかのような二台の異様な張り合いに、小鳥は気がつく。
いつのまにか、お兄ちゃんとランエボが、『正面衝突のチキンレース』をしているんだって――。
ブレーキを早く踏んだ方が負け。ぶつかっても負け。
もうコンクリートが目の前! 小鳥ならここでブレーキを踏む!
どうするの、翔兄! 運転席でいつもの落ち着いた横顔を見せている翔が、こんな時なのに小鳥をちらりと見た。
「小鳥」
そう言いながら、彼がブレーキを踏んだ。
急なブレーキにまた小鳥の身体が大きく揺れる。だけれど、やっぱり翔兄! これまた計算され尽くしたようにして、コンクリート目の前でピタリと停まった!
隣のランエボは――!? そう思った瞬間、ガシャリと鈍い音が耳に飛び込んだ。
「あっ――」
勝利の計算は……、翔が勝っていた。
白いランサーエボリューションが前方ボンネットを僅かに曲げている。翔より遅くブレーキを踏んで勝とうとした結果、計算違いで負けたのはランエボの方。
「瀬戸田……!」
ひと息ついている小鳥とは別に、翔はもう次の行動にうつっていた。手早くシートベルトを外すと、心配そうな顔で運転席を下りていってしまった。
――瀬戸田、大丈夫か。
あんなヤツなのに。少し前がへこんだだけなのに。それでも急いでランエボの運転席へと駆けていく。
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