19.龍の子は、小鳥じゃない

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 少し呆れながら小鳥も急いで助手席から降りた。  駐車場の真ん中には、黒いスカイラインと赤いCR-Xが並んでいる。そこから英児父と武ちゃんがこちらに向かってくる姿も見えた。  小鳥、大丈夫か! 父の声が届き、小鳥は大丈夫と手を振った。その姿にホッとした顔、そして娘へと英児父が駆けてくる姿に小鳥もなんだか急に泣きたい気持ちになってくる。 「――んのやろうっ!」 「やめろ、瀬戸田! 放せっ」  安堵も束の間、翔がランエボの運転席から飛び出してきたネクタイの男に胸ぐらを掴まれ、白い車体に押し付けられている。 「翔兄――」  小鳥も駆けつけるが、翔より背丈があるワイシャツ姿の男が高々と拳を振り上げている。  やめて! その男の背に飛びつこうとしたが、硬い拳が翔の顔面へと振り落とされる。  イヤ! 目をつむったが、ガンとルーフに激しくぶつかっただけの音。目を開けると、翔は顔を背け僅かに難を逃れている。その代わりにこちらも形相が変わった。  今度は翔がランエボの男の胸ぐらを掴みあげていた。 「なぜ俺じゃなくて、俺が乗っていない車を狙ったんだ!」  男の顔が息苦しそうに歪む。翔もそれだけ手加減をしてないということ。  男も手加減なし、翔の首元に掴みかかったまま、おなじように締め上げている。そしてその問いに決して答などしない。  だが翔が言ったひとことで男の顔が変貌する。 「瞳子か。いつ帰ってきた。瞳子に会ったのか」  瞳子さん? 突然出てきたその名に、小鳥は呆然とする。  翔兄の学生時代の知り合い、サークル関係、そして瞳子さん。これだけ揃ったら小鳥でも気がつく。ランエボの男は、横恋慕をしていたのだと。
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