19.龍の子は、小鳥じゃない

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「やめて!」  男同士の決着。だから邪魔をしちゃいけない。父親が言ったとおりに大人の顔をして我慢をしていたが、もうダメ。小鳥は飛び出し、翔より背が高いワイシャツ男の身体へと飛びかかり、振りかざされた腕を止めようとする。  殴らないで。お兄ちゃんを殴らないで――!   男と翔の間に飛び込んだ小鳥は、その一心で男の腕を、腕を止めようと……。男の拳が目の前にあった。厳つい拳骨が小鳥の両目に向かって飛び込んでくる!  その時なんて、ほんとうに一瞬。小鳥の頬は真横に跳ねとばされ、身体は白いランエボの車体に叩きつけられた。  小鳥――! 翔の声。 「うっ、うっ」  翔兄……。翔兄……。  そう呟いているつもりだったのに、声がでなくなっている。そして僅かに動いた口の中、変な味がする。口の中が切れている――。殴られて、切れたのだと知った。 「小鳥、小鳥、ど、どうして――」  すぐに彼の大きな手が、小鳥の顔を包み込んでくれている。  熱い彼の手を感じ、目が霞みそうなほどの痛みのなか、小鳥はやっと目を開ける。  青ざめた翔兄の顔、小鳥の顔をすごく慌てた顔で殴られた頬を確かめようとしている、その真上――、小鳥はまた悪魔の形相に気がついてしまう。 「お、おにいちゃん、うしろ……っ」  小鳥を案じて男同士の諍いに背を向け隙だらけになった翔の肩を、瀬戸田が鷲づかみにし再び襲いかかってくる。ど真ん中に女という邪魔が転がり込んでその女に危害を加えてしまおうがなんだろうが、標的『桧垣 翔』しか見えていないロボットのように拳骨を振り上げている。  肩越しに振り返った翔がそれに気がついた。振り落とされる拳骨、もう間に合わない。
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