19.龍の子は、小鳥じゃない

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『警察に被害届』。その言葉でやっと我に返ったのか、地面に瀬戸田という男が泣き崩れた。  叶わなかった恋、まだ消えない恋心。残った思慕を揺り動かされ、思わぬ姿に化けてしまった恋心。瀬戸田という男がしたことは許せないが、片想いが長かった小鳥はどうしてか一緒に泣きたくなった。  それがどうして、瞳子さんを自分が幸せにしたいんだという気持ちにならなかったのか、それが哀しかった。 「行こう。小鳥」  そして翔も。いまはそんな男とどうこうやりあうよりも、小鳥を抱きしめてくれた。  抱きしめられた彼の胸の向こうに、スカイラインに乗ろうとしている英児父の姿が見えた。  運転席のドアを開け、長い足をかけてシートに座ろうとしているその時、こちらをちらりと確かめたのが見えた。  小鳥を置いていきたくない、そんな顔? でも武ちゃんになにか話しかけられると、ばたりとドアを閉めてしまう。  黒のスカイライン、赤いCR-X、そしてノブの青いインプレッサが揃ってダム湖の駐車場を静かに出て行った。 「瀬戸田。俺も店で待っている」  翔がそう話しかけても、彼はもううずくまったままなにも言い返してこない。  ボンネットが僅かに曲がった白いランサーエボリューションと彼を置いて、小鳥と翔もMR2に乗り込んでダム湖を後にした。    帰り道。ふたりは無言だった。  小鳥も聞きたいことはいっぱいあって、それを聞かなければ帰ることなんてできない。  そして翔も、黙っているけれど、なにかを話したそうにはしている。  でもふたりは無言のままだった。
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