20.オマエのための部屋

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「まだ若かったからアイツもストレートに瞳子にアプローチしていたんだよ。でも瞳子はそういう真っ直ぐな熱心さを嫌がったんだ。あの年頃の女の子は、大人の男のスマートさに憧れるだろう。その欠けらもないと、若かった瀬戸田の真っ直ぐさを恐れていたんだ。既に俺とも付き合っていたから余計に。ほんとうの瀬戸田は成績優秀な後輩で、大阪の大きな商社に就職も決まってけっこう活躍していると卒業後も噂で聞いていた。それこそ、瞳子が望んでいた一流企業のエリートコースの男になって。だからかもしれない。アイツ、自信をつけて瞳子に会いに行ったんだろ。そこで今の状態の瞳子を見てしまったんだな、きっと……」  そこで翔はため息をついた。不器用な男が招いた、行きすぎた恋心だと。だけど小鳥にも思うところがある。 「あの男の人が瞳子さんに会いに行った気持ち、わかるような気がする。片想いって痛くて苦しいもん。好きで好きで堪らなかったなら、ふられたってきっと忘れないよ。一度諦めることが出来て、長く忘れている時期があっても、抑えられないほどうんと好きだったなら、その気持ちはずうっと心の奥底に刻まれたままだと思う。彼は久しぶりに瞳子さんを見て、思い出しちゃったんだよ。それで悔しくなっちゃったんだよ」  どうして? 翔兄を傷つけた男の味方になっているんだろう? 小鳥は自分で自分を殴りたくなった。  でも……。お兄ちゃんはそんな小鳥を慈しむように見つめているだけ。  大人だから? なにもかもわかった眼で、小さな女の子がいうことをわかりきったようにただ聞き流しているだけ? 「お、お兄ちゃんだって。瞳子さんが幸せじゃないと知って、ほんとうはどうなの?」 「どうって?」
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