20.オマエのための部屋

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 彼の眼が急に冷たく変貌した。 「だって、瞳子さんはまだお兄ちゃんのことが好きみたいだし。瀬戸田って後輩の人だって、瞳子さんが今の結婚を間違ったのはお兄ちゃんのせいだから、なんとかしろって怒っていたわけでしょう」 「だから?」  淡々とした静かな返答だったが、徐々に尖った声になっているのが伝わってきた。それでも小鳥は続けた。 「だから、いまなら、お兄ちゃんだって……」 「いい加減にしろよ。小鳥」  ビクッとした。静かな声が怒っている。  ランエボの男と対決した時に見せていた、冷たく燃える目が小鳥にも向けられていた。 「今夜、エンゼルの中で俺とオマエ、あんなにひとつになっていたあれはなんだったんだ。じゃあ、小鳥のすぐ隣にいたこの俺は偽りだったというのか」 「ち、違うけど。でも、でも、」  そして小鳥はついに、子供っぽく泣き出してしまう。そして思わず口走っていた。 「だって……。この部屋に、まだ彼女の匂いが残っているじゃない。お兄ちゃんは気がついていないの? 慣れちゃってもう当たり前になっているの?」  図星だったのか、翔の目線がすぐ、ベッドルームへと向いた。明らかに、あの部屋だけにある甘い匂い。 「まさか。あの匂いを気にして怒っているのか?」 「匂いはさっきここに来て急に気になっただけ!」  なのに、翔兄がおかしそうに笑っている。 「じゃあ……。いろいろなことに、瞳子が関わってばかりいるから、まだ俺が瞳子の男に見えてしまって落ち込んでいるのか」  ついに、お兄ちゃんがクスクスと笑い出した! こっちは真剣に真剣に、お兄ちゃんの『大人の過去』に追いつけなくてもどかしく思っているのに!
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