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彼の眼が急に冷たく変貌した。
「だって、瞳子さんはまだお兄ちゃんのことが好きみたいだし。瀬戸田って後輩の人だって、瞳子さんが今の結婚を間違ったのはお兄ちゃんのせいだから、なんとかしろって怒っていたわけでしょう」
「だから?」
淡々とした静かな返答だったが、徐々に尖った声になっているのが伝わってきた。それでも小鳥は続けた。
「だから、いまなら、お兄ちゃんだって……」
「いい加減にしろよ。小鳥」
ビクッとした。静かな声が怒っている。
ランエボの男と対決した時に見せていた、冷たく燃える目が小鳥にも向けられていた。
「今夜、エンゼルの中で俺とオマエ、あんなにひとつになっていたあれはなんだったんだ。じゃあ、小鳥のすぐ隣にいたこの俺は偽りだったというのか」
「ち、違うけど。でも、でも、」
そして小鳥はついに、子供っぽく泣き出してしまう。そして思わず口走っていた。
「だって……。この部屋に、まだ彼女の匂いが残っているじゃない。お兄ちゃんは気がついていないの? 慣れちゃってもう当たり前になっているの?」
図星だったのか、翔の目線がすぐ、ベッドルームへと向いた。明らかに、あの部屋だけにある甘い匂い。
「まさか。あの匂いを気にして怒っているのか?」
「匂いはさっきここに来て急に気になっただけ!」
なのに、翔兄がおかしそうに笑っている。
「じゃあ……。いろいろなことに、瞳子が関わってばかりいるから、まだ俺が瞳子の男に見えてしまって落ち込んでいるのか」
ついに、お兄ちゃんがクスクスと笑い出した! こっちは真剣に真剣に、お兄ちゃんの『大人の過去』に追いつけなくてもどかしく思っているのに!
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