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「ふーん。さすが、あの匂いに気がついてくれたのか」
まだ笑っている。
「ずっとずっとお兄ちゃんは持ったままなんだよ。前の彼女の匂いに慣れすぎて、お兄ちゃんには当たり前になっていたんでしょう。素敵な匂いだけど、やっぱり嫌!」
とうとう翔が『あはははは』と声高らかに笑い転げた。もう小鳥は頭に来て頭に来て、もうこんな部屋出て行ってやると立ち上がろうとしたら。
「小鳥にも素敵な匂いなんだ。そりゃ、そうだろう」
そして翔はそこでやっと……。小鳥を引き止めるように腕を掴んで放さなくなる。
「あれ。鈴子お祖母ちゃんからもらった香りだからな」
え、お祖母ちゃんから!? 小鳥は絶句し、翔を見た。
「龍星轟のママさん達はほんとうに、優しくて柔らかい女性達。俺が疲れた顔でもしていたんじゃないかな。鈴子さんが『お好みじゃないかもしれないけど、翔ちゃん、どうぞ』って……だいぶ前に分けてくれたアロマオイルだよ」
確かに、祖母は手芸や料理の他にも、アロマとかそういうことにも凝ってしまうほう。お祖母ちゃんの部屋に遊びに行くと、いい匂いがするのは当たり前になっていた。
「お祖母ちゃんったら……。翔兄にまでそんなことしていたの」
「そう。匂いが好みというより、お祖母ちゃんのその時の優しさっていうのかな。それを思い出せる匂いだよ。疲れた時はほんとうに使わせてもらっていた。だからきっと、小鳥も知っている匂いだろうからリラックスできるだろうと思って、小鳥がこの部屋に来るようになった日からあの香りを使っている」
そ、そうだったんだ。小鳥は唖然とする。そりゃあ、とっても安心する匂いだったわけだと納得した。そして……。ホッとしてきた。
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