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「俺、それまで車以外のものには無頓着で。母親が買ってきてくれたとか、彼女に任せきりだったとか。気にしないから適当に選んでくれたらいいなんて……。そういうのが駄目だったとも思った。俺のまわりの、俺のこと、車だけが必要なんじゃない。他にも同じように必要なものがある。心底、車が好きだからって、他に必要なものがどんなに面倒くさくても目を逸らしたらいけないと痛感したんだ。自分で整えられる大人にならなくてはいけなかったんだと。人を迎えられる部屋を自分で整える、そういう気持ちで、車だけじゃない生活も意識していこうと――」
それまでは、彼女が選んでいたものでこの部屋は溢れていた。彼女と別れ、翔は二年かけて、この部屋を自分のものに染め変え、そして最後、小鳥と過ごせるように整えてきてくれたのだ。
そして知る――。彼女の匂いなんて、もうどこにもない。それどころか翔は自分の色に染めきって、しかも、龍星轟にある小鳥に慣れた匂いも準備してくれていた。
「だから安心してあのベッドで小鳥を……。そうしたら、大きなベッドにしたのに、落としちゃうんだもんな。俺ときたら」
落としちゃった?
「え、あれは私が落ちちゃったんだよ」
「痛がる小鳥が逃げ腰なのを、俺が無理追いして落としたんだろ」
「え。私が痛がって隅まで逃げちゃって落ちちゃったんでしょ」
ふたりで顔を見合わせた。
「小鳥は気にしていたけれど、アレは俺が」
「気にしているけど、私だよ、私が勝手に……」
そこで目が合い、二人揃ってついに笑ってしまう。
「知らなかった。お兄ちゃんも気にしていただなんて」
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