2.お兄ちゃんが待ってる

9/10

2648人が本棚に入れています
本棚に追加
/316ページ
 今夜、その人がいなかった。でもいてもいなくても、きっと花梨はあの男の車に乗っていくつもりだったのだろう。  乗っていっただけで、その後どうしているかは知らない。だけど二人きりになった時を何度か目撃したが、その時の素振りで予感していた。特に花梨よりも勝部のほうが引き寄せているように見えた。花梨に触れるその手が、男の気を放っていた。  まさか。そんな、適当な、関係?  花梨がなにもかもを投げ出したくなるような気持ちもわからないでもない。でも、やっぱり小鳥は彼女にそんなふうになって欲しくなかった。  MR2の運転席に乗り込むと、メッセージの着信音。エンジンをかける前にバッグから取り出してみる。   【 小鳥ちゃん、お誕生日おめでとう! 今度はふたりだけで飲もうね。 せっかくの誕生日じゃない。岬で決心を固めてきたんでしょう。思い切って今夜、翔兄を誘っちゃいなよ。私、絶対に翔兄は小鳥ちゃんのことを好きになっていると思う! 翔兄たら真面目すぎるから、『社長の娘』とか気遣ったりして、自分からはなかなか打ち明けてくれないと思うよ~。小鳥ちゃんからぶつかっちゃえ! 応援しているからね。また聞かせて♪ 】    そんなメッセージ。スマホを握りしめ、小鳥はハンドルに項垂れた。  レガシィの助手席で打って送信してくれたのかと思うと、やるせない。 【 ありがとう。花梨ちゃん。今度、ゆっくり話そうね。今夜はお疲れ様 】―― そこまで打って、早く帰るんだよとか真っ直ぐ帰ってねとか……打てなかった。 「あーあ。花梨ちゃんにもっと早く報告しておけば良かった」  まだ何も知らない親友の応援が身に染みる。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2648人が本棚に入れています
本棚に追加