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お気に入りすぎて何度も着たので、近頃は襟元がすり切れてきて、生地も色褪せてきて、だんだんと着る回数が減ってしまって残念に思っていたところ。
そんな服を選んだ男の人。翔兄は私のことをよく知ってくれているんだと、着るたびに、そして、みんなが似合うと褒めてくれるたびに感じられた。小鳥を想って選んでくれた翔の気持ちが本物なんだと実感できて本当に嬉しかった。
そのドンピシャだったワンピースを選んだ男が、今になって言う。
「見えたんだよ。そのワンピースをひと目見た時、小鳥が見えた。大人になったらきっと小鳥はこういう服が似合って、カッコイイ女になるんだろうなって。そうでなければ疎い男の俺が、女物の洋服なんて東京の綺麗なショップで買ってくるわけないだろ」
あれはもの凄いインスピレーションだったと初めて、お土産を買ってきてくれた時の話をしてくれ、小鳥は驚いて彼を見上げた。
「俺の目は間違いなかった。そう確信したのは、小鳥がそのワンピースを初めて着てくれた日だ」
初めて着る日は決めていた。お兄ちゃんから譲ってもらった愛車『MR2に初めて乗る日』。他の同級生より少し遅く免許を取ることになった小鳥が、初めてMR2に乗ることになったのは、大学生になった初夏だった。ちょうどワンピースの季節。その黒いワンピースを着込んでMR2の運転席に乗り込んだ。
龍星轟のみんなが、初運転初出発を見送ってくれた。その時、お兄ちゃんもいた……。
「クールな黒いワンピースを着て、MR2に乗ってアクセルを踏んで飛び出していくカノジョ。ああ、俺が思ったとおりの、あの時、見えたとおりの女になりそうだなあと……」
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