23.いつのまにかレディ

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「そうだったのかな。それだったら瞳子さん、ひとりで留守番している時に赤ちゃんと二人で、心細かったのかな」  そう呟くと、英児父がまた黙って小鳥を見つめている。 「でもよ。俺の娘は、そんなおめでたいとバカにされるほどの『純情バカ』で、父ちゃんはそっちのほうが嬉しい」 「父ちゃん……」  世間では『おめでたいバカ』。でも父には『純情バカ娘』。 「翔をかばおうと飛び込んでいったおまえを見て『うわあ、やっぱり琴子の娘だわ』――と思ったよ」  あれ? あんなバカなことするのって、元ヤンの父ちゃんのほうじゃないの? こんなところで唐突に『琴子に似ている』と言われて小鳥はまた首を傾げた。  だけれど英児父は、その人のことを想っているのか、急に柔らかい眼差しになって静かに微笑んでいる。 「女ってスゲエなって。琴子だけじゃねえ、小鳥、おまえからも感じるようになるだなんてな」 「お母さんって、そんな無茶する人に見えないんだけれど」  すると父が急にケラケラと笑い出した。 「そっか。娘のおまえには『当たり前』に見えているのかもな。俺とか矢野じいなんて、ここに初めてきた琴子がやることに振りまわされたもんだよ。あの、俺の、スカイライン……あんなにして……」 「え、なにそれ! お母さん、ここに初めて来た時、父ちゃんのスカイラインになにしちゃったの?」 「いや、その。俺のスカイラインをさあ~、あはは!」  何を思い出したのか、英児父は一人で笑い転げて楽しそう。そんな父の想い出に娘の小鳥が入れる隙もなさそうだった。  そんな父がひと息ついて、小鳥の頬を指さした。 「翔は、その赤く腫れた頬になにもしてくれなかったのか」
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