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3.お兄ちゃんのマンション
隣町は港。その手前、市街ベッドタウン。港へと住居が減り始めるその境目に、翔のマンションがある。
――龍星轟のように、俺の部屋からも海が見える。
岬の夜、翔兄がそう教えてくれた。
港には富裕層向けのタワーマンションもあるので、郊外でもリゾート的な雰囲気もある街で、海が見えるように建てられたマンションが多い。翔のマンションもそのひとつ。
彼のマンションがどこにあるかは知っていた。だけどそこを訪ねるのはハジメテ。翔が空けておいてくれた駐車場にMR2を駐車し、小鳥はわりと階数があるマンションを見上げた。
「五階だっけ」
バッグからカモメの合い鍵を取り出し、握りしめた。
ついにその部屋番号のドアの前に小鳥は立った。チャイムボタンへと指が向かいハッと気がつく。
虹色を含んだホワイトシェルで出来ているカモメが揺れる鍵を持っているのに――と。
鍵穴に差し込み静かにまわすと、鍵が開く音。
本当に開いちゃった。でも、やっぱりチャイムを鳴らしてから開けて入ったほうが良いかな。そう思いあぐねてしまい、ドアノブを握れずにいた。
――小鳥?
ドアの向こうから、彼の声。
「お兄ちゃん、こんばんは」
ドアの外で小さく呟くと、そのドアが開いた。
「なんだよ。鍵で開けたなら入ればいいのに」
彼がちょっと残念そうな顔で小鳥を見下ろしていた。その目と合ってしまい、小鳥は気恥ずかしくなり目を逸らす。
「やっぱり、いきなりは失礼かなーっと思って」
「なんだよ、そんなこと大丈夫だから。入れよ」
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